【日間1位】夫が十年間「出張」と言い張った先に、もうひとつの家庭がありました 

pt:8020 | 部分数:30 (完結) | 作者:秋月 もみじ

《 あらすじ 》

月の半分が空席の執務机を、十年間おかしいと思わなかった。

夫は王都出張だと言った。
辺境の領地経営は妻の仕事だと、誰も疑わなかった。
堤防を直し、帳簿をつけ、領民に慕われ、子供を育てた。
それが当たり前の日常だった。

ある日、王都で見つけたのは夫の別邸。
庭には見知らぬ女性と、夫によく似た子供がいた。
その女性の指には、五年前に夫が無くしたと言った指輪が光っていた。

三秒だけ目を閉じた。
目を開けた時、もう泣く気はなかった。

帰路の馬車の中で、侍女にひとつだけ告げた。
帰ったら引き継ぎ資料を作る、と。

三ヶ月かけて仕上げた資料は三百二十四頁。
十年分の仕事を紙に落とし込んで、全部返した。
一つ残らず。

領地を去る日、手元に残ったのは帳簿の写しと、隣国の技師から届いた五年分の書簡だけだった。

あの技師は、一度も余計なことを言わなかった。
約束の時間に遅れたこともなかった。
ただ書簡の末尾にだけ、不器用な一文を添えていた。

夫のいない領地で何が起きるのか。
帳簿に残された数字は何を語るのか。
五年間黙っていた技師は、なぜ黙っていたのか。

返したものの重さを、あの人はまだ知らない。